ヘンプについて
開拓使と麻
約1万年前の縄文時代草創期の福井県小浜市の鳥浜貝塚から大麻の縄が出土されています。種子(麻の実)では、千葉県館山市の沖ノ島遺跡から出土しています。これらの出土は考古学において世界最古のものと言われています。実は、北海道でも千歳市のキウス4遺跡、江別市の江別太遺跡からそれぞれ種子が出土しています。
北海道のアイヌ民族で、麻を利用したものは特になかったと言われていますが、北海道にも縄文時代からの利用の痕跡があることが確かなようです。これからの発掘・発見に期待できるかもしれません。
引用:千葉県沖ノ島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実(2008)
北海道における麻の最も古い記録は、松前蝦夷記(1717年・享保2年)です。「松前西東の地にて雑穀、粟、稗、麻、多葉粉総って畑物土地に出来申候」と見られるが、和人地における大麻草の耕作を示しています。
明治6年に北海道に屯田兵制度ができると、養蚕と大麻草を授産産業として奨励しました。開拓使がおかれて初めて耕作されたのは、琴似・山鼻兵村(現・札幌市西区)であり、明治11年、屯田兵本部が栃木県産の種子を使って30町歩耕作したと記録されています。明治初期において、道内の栽培75%は札幌区と石狩郡で占められ、中でも当別村はその中心であったようです。当時の繊維の多くは、イワシやニシンの漁網用に製造されていました。
明治初期に函館の五稜郭で新政府と最後まで戦った榎本武揚は、ロシア公使時代に麻の栽培を自ら行い、北海道の麻産業に尽力しています。
明治9年に農務省技師の吉田健作が渡欧し、帰国後に大麻紡績の工業化を計画し、北海道製麻会社が明治30年に設立し、はじめに大麻草を中心とし、その後に亜麻の生産に力を入れるようになりました。札幌農学校(現・北海道大学)では、南(池田)鷹次郎の実験実習報告書があり、大麻草栽培と亜麻栽培は正式な教科内容であったことが記されています。
日清戦争後の明治40年に北海道製麻と日本製麻が合併して帝国製麻を創立しています。これは今でもリネン(亜麻)製品を販売している帝国繊維の前身の会社でした。第1次世界大戦、第二次世界大戦中は、軍服、ロープ用などの軍需用に栽培が盛んに行われました。この頃の亜麻の栽培記録は多数残っていますが、大麻草の記録は極めて少なく、資料の掘り起こしが望まれています。
参考文献
福山和子.北海道の麻事業の歴史概説.民俗服飾研究論集.1987,2,p.23-26.
永田志津子.北海道における麻繊維生産の推移について.静修短期大学研究紀要.1988, 19,p.53-59.
第二次世界大戦敗戦後の1948年に大麻取締法ができてからは、栽培されずに放置された大麻草が野生化しました。
1969~1973年にかけて北海道立衛生研究所は、道内の野生大麻の調査を行い、マリファナの主成分であるTHC濃度がTHC0.56~5.73%、平均1.26%であることを明らかになっています。また、野生大麻は、年間100~200万本ぐらい抜き取りされています。
2002年のヘンプカー・プロジェクトをきっかけに、北海道北見市の産業クラスター研究会オホーツクが2003年からこのテーマに取り組み、2005年に栽培免許を取得し、麻の先進地への視察ツアー(ドイツ、フランス、栃木県、長野県、韓国、カナダ)を実施しました。また、2008年8月8日に北海道庁から「産業用大麻栽培特区」が認定され、新産業の創出に向けた準備が進められました。その特区に認められたときの文書から麻を推進するメリットを次のように述べています。
これらのメリットを一言でいうと、麻は、北海道の次世代作物としての可能性に期待がかかっているということです。
<これまでの北見市を中心とした主な動き>
02年 ヘンプカープロジェクト 最終ゴール横浜で出会う
03年 講演会の実施
ドイツ視察ツアー実施 畑からベンツまで
04年 産業クラスター研究会・麻プロジェクト 産官学連携でスタート
05年 大麻栽培者免許取得(ハーブ園の会社)
06年 道立農業試験場での研究スタート(大麻研究免許取得)
フランス視察ツアー実施 種子管理、建築、プラスチックまで
07年 事業可能性基礎調査を実施(中小企業組合の補助事業として)
国の構造改革特区申請 残念ながらC判定(特区ならず)
08年 産業用大麻栽培特区の認定(道庁より)
第2回アジア大麻産業国際会議に参加(韓国視察)
09年 特区記念シンポジウム開催 200名規模
10年 カナダ視察、ヘンプマルシェ(麻市)を開催
11年 ヘンプカープロジェクト2011北海道を実施
12年 北海道ヘンプネット発足
13年 北海道庁農政部で産業用大麻可能性検討委員会(有識者として参加)が開催
14年 道議会で産業用大麻に関する質疑が行われた
大麻研究者免許取得(東川町の松家農園社長および菊地)
一般社団法人北海道ヘンプ協会設立
15年 北海道ヘンプ協会がEIHA(ヨーロッパ産業用ヘンプ協会)の準会員に加入
フランス視察ツアー実施
16年 オランダ・ドイツ・ヘンプ産業視察ツアー実施
17年 日仏ヘンプ国際シンポジウム(札幌、東京)を企画
18年 中国黒龍江省ヘンプ産業視察ツアー実施
農業試験場における研究
●大麻で土壌改善
道立北見農業試験場が産業用大麻の試験栽培に取り組んでいる。肥料の過剰投入で土壌内に残留し、地下水汚染の原因となる硝酸性窒素を、旺盛な成長力の産業用大麻がどれだけ吸収するかを測定するのが狙い。昨年の調査では、予想以上の数値を示しており北見農試は「土壌改善が可能になる」と期待している。
産業用大麻は麻薬成分を含まないように改良された品種で、海外では茎を繊維材料や建材などに活用しているが、国内での栽培例は少ない。北見農試はその成長力に注目した。1年草で春に種をまくと秋には背丈が3m以上になるため窒素肥料の過剰投入などで土壌に蓄積されている硝酸性窒素を多量に吸い上げると考えた。
昨年度は約3アールの試験用畑に産業用大麻をまき、まく前と収穫後の土壌を分析したところ、約9キロもの硝酸性窒素が除去された。北見農試では「吸収力が高いとされるデントコーンなどの深根性作物の3倍にあたる」としている。硝酸性窒素は化学肥料に含まれていることが多く、作物の成長を促す一方、作物が吸収しきれないほどに過剰に投入されると土壌に残留する。
産業用大麻をめぐっては、製品加工を目指して「産業クラスター研究会オホーツク」(北見市)も試験栽培中。北見農試は「栽培によって土壌改良が進み、将来的には繊維材料などの商品作物ともなる」と話している。
硝酸性窒素
土壌に残留した硝酸性窒素は地下水に流れ込む。人間が多量に摂取すると他の物質と結合して発がん物質となる。道の調査(1999-2001年)によると、網走管内では全道平均の8%を大きく上回る25%の井戸の水から基準値以上の硝酸性窒素が検出された。
<2006年9月18日 北海道新聞より>
この研究は、2005年から2008年の4年間に渡って実施され、下記のような報告書が発行されている。詳しくはPDFをダウンロードしてお読みください。
深根性作物の導入による汚染軽減対策(2009) ファイルサイズ:710kb
引用:特定政策研究「安全・安心な水環境の次世代への継承-硝酸性窒素等による地下水汚染の防止・改善」成果集 北海道立農業試験場資料 第38号
http://www.agri.hro.or.jp/center/kankoubutsu/shiryou/38/fulltxtindex.html
戦前は、北海道農事試験場においていくつかの栽培研究を実施していました。1939年から42年に行われた研究により栃木県農業試験場で1928年に育成された「栃試1号」と呼ばれる品種が、1943年に北海道の優良品種に指定されました。
札幌1940年は、雹害(ヒョウガイ)のため子実収量の測定中止。
渡島と日高は、子実がスズメ害にあったため試験中止。
北見は霜害のため子実収量が皆無となった。
白木種とは当時の在来種の名称。
精麻率は、生茎収量からの収率を示す。
道内16か所で行われた白木種の試験栽培の結果
出典:大麻「栃試1号」に関する試験成績.北海道農業試験場業務概要.北海道農業試験場.1942.p139-144.
2014年5月からに上川管内で試験栽培が始まりましたが、同じ上川管内の農事試験場美瑛分場のころから数えると72年ぶりの試験栽培となるわけです。
海外で見直される麻
海外では、1990年代から様々な国で麻の見直しがはじまり、オーガニックな農作物として知られています。ここでは、最近のEU、カナダ、アメリカ、中国の事例を紹介します。
<麻の10大特性>
※ 他の麻と比較して、4)、5)、10)は大きな特徴です。
1.栽培解禁の歴史
EU諸国では、旧・ソ連の影響下にあった東ヨーロッパ(ポーランド、ハンガリー、ルーマニアなど)は、第二次世界大戦後も大麻草(以下、麻と統一する)栽培が続けられていたが、西ヨーロッパの主要国のドイツ、イギリス、オランダ、オーストリア等では、大戦後の栽培は一時的に禁止されていた。唯一の例外は、フランスであり、昔から紙パルプ用に麻が栽培していたために一度も規制されていない。
1990年代に環境問題や健康問題を背景とした麻の見直しが広がり、1993年にイギリス、1994年にオランダ、1996年にドイツとオーストリアにおいて薬理成分THCが0.3%未満の産業用の麻の品種に限定して栽培解禁となった。栽培解禁が可能となった背景に、ヨーロッパ農業共通政策(CAP)における補助金のスキーム(枠組み)の存在がある。現在のEUにおける麻は、EU規則(Regulation)の農業分野のFlax and Hemp(亜麻及び麻)という項目に位置づけられている。 この項目は、ヨーロッパ共同市場機構(CMO)の執行規則 (EC)No 1673/2000に基づく補助金スキームである。規則とは、EUの法体系において加盟国の法令を統一するために制定され、その国に直接の効力を持ち、すべての国内法より優先する性質をもつものである。
この補助金スキームは、1970年に規則(EEC)No.1308/70が発行されてから今日まで内容の幾多の変遷がある。例えば、2001年からはTHC基準を0.3%から0.2%と厳しくし、品種リスト及びTHC測定手順書を発行している。この制度における補助金は、2008年に麻の藁束1t当たり90ユーロであった。
2.栽培条件
・栽培品種は、EU規則においてTHC成分が0.2%未満の品種であることを規定している。
・EU共通品種カタログの農業品種87種類のA-63番で“Hemp-Cannabis sativa”があり、
52品種が掲載されている。(2015年5月末段階)
・EU圏内の農家は、フランス政府が指定した麻専門の種子会社又は、麻の種子を保有するいくつかの農業試験場から入手する。
・栽培農家は、麻栽培のための特別なライセンスは必要としない。
・THC0.2%未満の品種であれば、種子、茎(繊維と麻幹)だけでなく、葉や花穂もビール、ハーブ茶、エッセンシャルオイル(精油)、香料、医療用原料などの商品化に活用することは合法である。
(日本では葉と花穂の利用がいかなる品種でも違法とされる)
3.現在の市場
市場規模(2012年) 70~80億円(1次加工会社出荷額ベース)
栽培面積(2017年) 42,500ha
4.麻の用途
1 栽培解禁の歴史
カナダは、1938年のあへん&麻薬条例で麻の生産は禁止されていた。麻は、1990年代に新ビジネスとしての関心が高まり、1994年~1998年に研究調査が行われた。その結果、カナダ保健省は、一定の制約のもとで農業・産業分野に活用することを決定した。それは、1997年に施行した連邦法の規制薬物・物質法(Controlled Drugs and Substances Act:CDSA)に1998年に産業用大麻規則(Industrial Hemp Regulations)を設けて栽培を解禁するものであった。この規則では、産業用大麻の定義は次のように明記されている。
「『産業用大麻』とは、カンナビス属植物及びその部分で、その葉と花穂が0.3%を超えるTHCを有しないものをいい、その植物の派生物及びその植物の部分を含む。また、発芽不能の種子の派生物を含む。カンナビス属植物の発芽不能の種子(その派生物を除く)、及び葉、花、種子、小枝を含まない成熟した大麻の茎、並びにそれらの茎から取り出した繊維を主なものとするその植物の部分は、産業用大麻に含まれない。」
つまり、葉と花穂がTHC0.3%以下なら、植物すべて利用可能であり、発芽可能な種子は、産業用大麻に含まれる。 それ以外の発芽不能な種子、茎や繊維はこの規則以前から規制対象外であり、産業用大麻の定義に含まれていない。カナダの規則で特徴的なのは、免許が栽培、輸入、輸出、加工、配送、所有、育種、分析、サンプル調査と全部で9種類あり、生産から輸出入までを管理している点である。免許の申請者は、既定の条件を満たし、さらに、警察の保安審査を受け、葉や派生物のTHCレベルの検査は、カナダ保健省によって定義された規格に従って、適格な検査機関によって実施しなければならないと規定されている。
2 栽培条件
・THC0.3%以下の44品種(2015年)に限定している。
・保健省(州)からの免許が必要である。
免許には、栽培、輸入、輸出、加工、配送、所有、育種、分析、サンプル調査の9つの種類がある。
・栽培農家は、種子をカナダ国内3社の麻を取り扱う種子会社から購入する。
・栽培後もTHC検査の免許のある機関から年1回の検査を受ける必要がある。
3 現在の市場
<産業分野>
市場規模(2014年):約57億円(輸出額)
栽培面積:26982ha(2013年)、43912ha(2014年)、50600ha(2015年)
栽培者数:768人(2014年)
<医療分野>
ブリティッシュコロンビア州(BC州)の市場規模(2011年):6000億円
カナダ保健省で許可された全患者数:約20万人(2017年)
※カナダは、2003年から医療大麻についても合法化している。
4 麻の用途
2006年に大量に栽培されたが、その後の在庫調整のため大きく栽培が減り、2012年では20000haを超えた。EUと異なりほとんどが麻の実を食用に利用。
出典:Daniel Kruse, New Data on Hemp Food Market and THC Limits for Food and Feed, EIHA 12th conference 2015
"B.C.’s medicinal marijuana business growing" Business In Vancouver, Jul 3, 2012
1.解禁の歴史
アメリカ建国の父ジョージ・ワシントンは、麻栽培者であり、独立宣言文の紙は、麻紙であったことが知られている。1800年代の布地と紙は、ほとんどが麻からつくられてきたが、禁酒法の廃止を受けて制定された1937年のマリファナ課税法によって実質的な栽培が不可能となった。
第二次世界大戦中は、軍服、戦艦のロープ、パラシュートの綱などに不可欠であった麻は、一時的に解禁されたが、戦後は栽培されなくなった。1961年の麻薬に関する単一条約において「大麻」の規制を提案し、国連で採択されたことから全世界に対して大麻撲滅のキャンペーンの旗振り役となった。ところが、1970年代のヒッピームーブメントや反戦運動においてマリファナの喫煙が反社会的ファッションとして若者の間に広がり、エイズや緑内障、ガン疼痛などの自己治療のために大麻を利用する人が徐々に増えていき、法規制と実体が乖離する状況が生まれた。
1996年にカリフォルニア州が医療目的の大麻の利用を住民投票で合法化すると、次々にその政策に従う州が増え、現在では29州+ワシントンDCとなった。さらに、住民投票の結果を受けて2014年からはワシントン州とコロラド州などが嗜好品として合法化し、現在9州となった。一方で、産業目的の大麻の利用は、2014年に産業用大麻農業法が可決してから、19州で栽培が始まったところである。
大麻は、医療、嗜好の分野で連邦と州で意見が対立するテーマであり、連邦議会で州政府との整合性を取るための法案が提案されている。
2 栽培条件
産業分野:2014年2月 7606 of act 産業用大麻研究法 可決
2014年5月 H.R.4660 産業用大麻農業法 可決
医療分野:患者が自家栽培 本数は3~18本と州法によって定められている
患者が栽培できない場合は、介護師が代替することが可能。
3 現在の市場
<産業分野:繊維・食用の品種>
アメリカ国内のヘンプ産業:620百万ドル(約744億円)
ボディケア・食品は80百万ドル(96億円)
コロラド州 1040ha(2014年開始)
ケンタッキー州 697ha(2014年開始)
テネシー州 641ha(2014年開始)
<医療分野:薬用の品種>
全米:27億ドル(3240円億円)市場規模(2014年)
2021年になると、4.5兆円産業になると推測
栽培を合法化した州(2017年):29州+ワシントンDC
4 麻の用途
1 歴史
麻は、中国では伝統的な麻類作物であり、1950年代に多くの麻の育種栽培の研究をしていた。しかし、全世界的に大麻栽培の禁止政策が実施され、50年代から生産量は90%以上減少した。中国の麻栽培の分布は、黒竜江、吉林、遼寧、河北、山西、山東、安徽、河南、甘粛で、毎年2~3万トン生産され、今でも世界で最も栽培されている。中国では、東北の方では銭麻と呼び、山西では火麻、安徽では寒麻、甘粛では湖麻、雲南では雲麻と呼ばれている。
2007年から中国の軍の漢麻資材研究センターとアパレル業界のNo1であるヤンガー・グループが出資して、漢麻産業投資控股有限公司が設立され、その投資額は2億元(約30億円)であった。2009年に雲南省に最新鋭の紡績工場を新設し、2011年から年5000トンのヘンプ繊維を生産している。
中国国家が麻に注力している理由はいくつかある。沿岸部と内陸部の経済格差の解消、麻が山間地、荒地、塩分を含む痩せた土地で栽培可能な作物であること、中国国家がかかえる砂漠化、食糧不足、石油不足、心理不足、水の枯渇、農業問題を解決するための手段、この結果、中国の産業競争力を強化することねらいとしている。
2 栽培条件
中華人民共和国 推奨国家標準「GB/T16984-2008大麻原麻」によって、2008年からTHC含有量によって品種名称が定義づけられている。
工業用大麻低毒大麻品種:THC0.3%以下
無毒大麻品種 :THC0.1%以下
しかし、実際の栽培においては昔から栽培してきた歴史があるため、それほど厳密に管理されていない。例外的に雲南省は省の規定で0.3%以下の品種基準を定めている。
3 現在の市場と展望
繊維用・種子用あわせて約50000ヘクタール(2016年)
1位 黒龍江省 26800ha
2位 雲南省 6667ha
ヤンガー社では、下記のような計画がある。
暮らしに役立つ麻
麻から25000種類の様々な生活用品ができるといわれ、健康と環境のことを考えた衣食住をサポートする自然素材です。
今日、私たちの着ている服の半分以上が木綿(コットン)です。コットン100%というとナチュラルな感じがします。ところが、コットンの服を着ているだけで、私たちは、農家の体を蝕み、土壌汚染と水不足を招き、大地の荒廃という環境破壊に貢献しているのです。普通の農産物ならば、口に入れるものなので身近な問題として認識しやすいけれど、衣服となると、自分とは異なる世界の出来事として無関心なままです。
木綿の栽培は、全世界の農地面積でたったの2%しかないのに、殺虫剤、除草剤、土壌消毒剤などの農薬使用量の26%を占めているといわれています。収穫時に人工的に葉や茎を枯らさないと、葉の葉緑素がシミになってしまうので、コットン畑に枯葉剤を飛行機から空中散布するのです。また、かつて世界第4位の湖であったアラル海は、周辺のコットン栽培によって干上がってしまった。コットンは、成長時に大量の水と栄養分が必要となるからです。
それに比べて麻は、農薬を必要とせず、少しの肥料でよく、雑草や害虫に強いため、コットンように環境破壊を招かない作物です。温帯だけでなく、亜寒帯、熱帯、半砂漠地帯でも生育でき、世界中どこでも栽培できます。特にアパレル業界において麻(ヘンプ)は、オーガニック・コットンと並ぶ天然素材として認知されています。麻は、あえて「オーガニック」といわなくてもはじめからオーガニックな素材なのです。
さらに、麻繊維の構造やその成分から消臭性、抗菌性が高く、体の湿度を適度にたもつ機能をもちます。高温多湿な日本において「麻」の服は欠かせないものなのです。
「麻の実(あさのみ、おのみ)」は、うどんやそばなどの薬味である七味唐辛子の一味として入っています。麻の実は、タンパク質と食物繊維と脂肪酸と3つがバランスよく含まれ、昔から整腸作用の高い漢方薬として使われてきました。
従来難しかった麻の実の堅い殻を剥く技術がドイツやカナダで開発され、加工や料理の自由度が広がりました。クルミのような味がし、大豆のように加工食品ができる麻の実は、新しい健康食品として生活習慣病の予防・改善の効果が注目されています。
日本では、年間の輸入量が1000トンほどあり、ほとんどが鳥のエサとして流通しています。中国の100歳長寿の里・巴馬(バーマ)の研究より、ポリフェノールの一種「カンナビシンA」には抗酸化作用があることがわかりました。
麻の実から抽出されるヘンプオイルには、非常に高い浸透力と保湿性があり、乾燥したお肌をしっとりとさせます。薬事法によって規制されていたが、ヘンプコスメ専門会社「(株)シャンブル」が2004年にヘンプオイルを化粧品原料登録してから、日本国内の製造販売が可能となり、ヘンプコスメ商品を多数開発し、大手デパートでも販売されています。また、手作り石けんの愛好家には、ヘンプオイルの心地よさのファンも多いものです。
2000年から日本の製紙会社2社がヘンプ紙の製造に取り組んでいましたが、2008年の古紙偽装事件(古紙の割合が表示より著しく低かった)を受けて市販品がなくなりました。しかし、今では、3つの和紙事業者がヘンプ紙を使ったランプシェードや壁紙を製作しています。また、無薬品ヘンプパルプ25%入りのヘンプ紙がヤンガートレーディング社によって開発され、それを使った紙製品を販売しています。
日本では昔から石灰と海藻糊と麻スサ(ヘンプ繊維を5mmカットしたもの)を壁材(漆喰という)として利用してきた歴史があります。日本では2003年から石灰と麻チップをベースにした塗り壁材を施工及び販売しています。その壁は、デザインと調湿性に優れ、リフォーム市場に広がっています。
他にも断熱材、ヘンプ壁紙、ヘンプオイル塗料、麻チップの調湿建材ボード、ヘンプ100%蚊帳、麻布団、麻炭が開発され、2008年7月31日~11月11日まで、ヘンプ建材とインテリアの企画展を業界では有名な室内環境情報センター「OZONE」(東京・新宿区)で実施されました。
海外では、繊維を剥いだ後のオガラでチップ状になったものを競走馬の敷料として使っています。麦藁の敷料と比べて吸水性、埃が少なく、消臭効果があり、防虫性に優れ、クッション性があり、有害化学物質ゼロという高品質なものとして扱われています。沖縄では牛、豚、鶏などで実験において、動物のストレスを軽減させ肉質を上げることが報告されています。今後、高品質な家畜分野において利用が広がることが期待されています。
海外では、ベンツやBMWなどの自動車用内装材にヘンプ繊維が強化材として使われているが、日本での採用実績はまだありません。日本では、備蓄米の古々米と栃木県産の麻(オガラ)でつくったINASO樹脂が開発され、PP(ポリプロピレン)の代替製品として製造販売され、団扇、箸、しゃもじ等が商品化されています。
繊維を採った後の芯材をオガラ(麻幹)といい、それを炭化させたものが麻炭です。もともとは、昔の懐炉灰や花火の助燃材として使われてきましたが、最近では、パウダー化した麻炭を使って様々な生活用品がつくられています。特に麻炭は、備長炭の4倍、竹炭の1.6倍の多孔質性があり、吸着や消臭に優れた効果があると考えられています。
最近は、燃料と食糧の競合を避けるために、木質系からBTL(バイオ液体燃料)をつくることが注目されています。BTLは、麻茎から取ることができ、収量の2割が液体燃料となり、余剰ガスで発電と熱エネルギーが取り出せる装置です。離島経済や中山間地域で500?1000人規模で1台のエネルギー自給プラントを導入することが提案されています。
欧米では、繊維用の品種の麻ではなく、THCを含む薬用型の品種の麻が、有効な治療薬として使われはじめています。最近の欧米の医学的研究により、ガン、エイズ、緑内障、喘息、てんかん、鬱病、慢性の痛み、多発性硬化症などの神経性難病に効果があることが明らかにされています。これら臨床報告や研究は、1980年代後半から人体にカンナビノイド受容体と脳内マリファナが発見されたことによって、医学や薬学分野では世界規模での研究競争がさかんになってきています。
1996年のアメリカのカルフォルニア州をきっかけに今では20州で医療利用が許可され、他にはオランダ、ベルギー、カナダ、イスライル、スペインやドイツなどで医師の診断書などの所定の手続きがあれば許可されています。日本の製薬企業である大塚製薬も2007年からアメリカでガンの疼痛を対象とした鎮痛剤の臨床試験及び創薬開発を始めています。
日本では、戦前までは「印度大麻」として第5改正薬局方(~1951年)まで鎮静・鎮痛薬として市販されていた歴史があります。しかし、戦後に出来た大麻取締法の第4条によって、患者に処方する医者も、処方された患者も懲役5年以下の刑罰に処せられます。他の薬なら医者と患者が合意すれば、国内で未承認の薬でも試用できますが、大麻に関しては医者の臨床試験も基本的な医学的研究もできない状況なのです。
このような状況下でも脳内マリファナのメカニズムの基礎研究は、日本でも盛んに行われており、金沢大、九州大、東大などで神経学及び麻酔学の分野で研究され、世界的な成果を多数成し遂げています。世界的な研究成果を生かしつつ、医療大麻の研究ができるように日本でも一刻も早く、法改正する必要があります。
野生大麻と遺伝資源
北海道では、1965年(昭和40年)に野生大麻の調査を実施してから毎年、各地で野生大麻抜き取り活動を行っています。1983年に抜き取った数850万本をピークに徐々に減少し、最近では100万本前後となっています。
道の衛生研究所では野生大麻の調査研究を1969年から1973年にかけて実施しています。そのときにまとめらたレポートは下記のようなものです。
(1)橘高毅ら他『道産大麻の研究(第1報)道産野生大麻の分布と麻酔性成分について』、北海道立衛生研究所報 第19集、1969
概要:道内の野生大麻は、広く各地に分布しており、札幌を中心とした道央地区に密生。野生大麻のTHC含有量は、雌葉:0.2~1.6%、雄葉:0.1~1.1%、種子:0~0.5%、地域差による成分差や雄雌間の異差は認められなかった。
(2)本間正一ら他『道産大麻の研究(第2報)道産野生大麻のCBD,THC,CBN含有量について』北海道立衛生研究所報第21集、1971
概要:道内各地の野生大麻の雌株でCBD:0.04~0.49%、THC0.56~5.73%、CBN0.05~0.48%で地域差、成分量の差、雄雌の差は認められなかった。大麻草の部位別含有量は、3成分とも成長葉、包葉、小包の順に多く、茎にはほとんど含有は認められなかった。
(3)本間正一ら他『道産大麻の研究(第3報)成育過程における大麻成分の推移について』
北海道立衛生研究所報第21集、1971
概要:大麻成分は、生育するにしたがって増加し、枯れる時期になって低下する。大麻成分は、茎、分枝、葉の順に多くなり、葉のうちでも上部の葉である成長葉、包葉、小包の順に多くなる。野性大麻と栽培種の比較も実施し、最も高い値で、野生大麻(札幌)雌株9月の葉THC:3.96%、当時の栃木県栽培品種の押原種では、雌株10月の小包THC:2.24%を示した。
(4)橘高毅ら他『道産大麻の研究(第4報)野生大麻の成育土壌と微量要素について』
北海道立衛生研究所報第21集、1971
概要:道内各地の野生大麻の土壌分析から土壌学的な著明な特殊性は認められなかった。大麻の微量要素Feが最大で420~2750ppm(平均979ppm)、Mn:33~500ppm(平均148ppm)、Zn:40 ~135ppm(平均77ppm)、Cu:10~66.5ppm(平均29ppm)のとなった。他の生薬と比較して、Feが極めて多く、逆にZnはかなり低い量を示した。
(5)金島弘恭ら他『道産大麻の研究(第5報)生育環境と大麻成分』
北海道立衛生絵研究所報第23集、1973
概要:栃木県の栽培品種の押原種と野生大麻種を伊達町と女満別町から採取した土壌で栽培を実施。土壌や生育環境に大麻成分は影響されず、むしろ産地別種による固有のパターンを示す傾向が見られた。押原種は平均THC:0.65%、野生大麻は平均THC:1.27%であった。
詳しくは、道立衛生研究所報目次からPDFファイルで見ることができます。
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遺伝資源(種子)は、近代農業の発達により、病害虫に強く、味がよく、収量の高い特定の品種が普及したことによって、昔からあった在来種が少なくなり、種子の多様性が失われてきています。1993年に生物多様性保全条約が制定され、遺伝資源は、各国で保全すべき対象となっています。
大麻草についても、ヘンプ(産業用大麻)と呼ばれているCBDA種は、ヨーロッパ種が中心であり、研究によるとたったの3つの品種系統に限定され、今後の育種にとって大きな懸念事項となっているのが現状です。
また、本州の栃木県で1983年に開発された産業用大麻品種「とちぎしろ」は、当時の九州大学正山教授によって佐賀県で偶然発見されたマリファナの主成分THCが0%のCBDA種と栃木県在来種の栃木試1号を集団選抜法によって育成したものです。新しい品種をつくる「育種」という世界では、野生大麻はたいへん貴重な存在なのです。
道内の野生大麻は、明治時代に栃木県をはじめとした本州各地から導入されたことがわかっていますが、戦後60年以上、誰の手も借りずに自生していることから、生命力が高く、大きな可能性を秘めた貴重な遺伝資源と考えることができます。
最近では、日本の大塚製薬の共同研究パートナーとなっているイギリスのGW製薬がCBDA種の薬理作用の研究を進めたことにより、従来からの繊維用や食用だけでなく、薬用にも応用できることが明らかになりつつあります(下図参照)。
道内において、野生大麻をただ抜き取り、焼却・埋没処理するだけでなく、遺伝資源としての調査研究をし、産業用大麻の普及と推進に貢献することが必要でしょう。
注)THC=テトラヒドロカンナビノール 薬用品種の主成分
CBD=カンナビジオール 繊維用・食用品種の主成分
CBDA=カンナビジオール酸 大麻草の植物体内でのCBDの形態
熱をかけたりすると脱炭酸してCBDとなる








































